不動産生前贈与のポイント!家や土地の名義変更、税金などの費用と手続き方法のまとめ
不動産の生前贈与は、遺産相続や税金対策について考える人々にとって、有効な選択肢となりえる手法の一つ。
相続税の軽減や贈与者の意向を反映させられるなど、家族間の円滑な財産移転を実現することが可能ですが、デメリットや注意点もあります。
相続トラブルの予防のためにも、不動産の生前贈与にかかる税金や費用、手続きの流れなどについてまとめました!
不動産の生前贈与とは?
一般的に不動産の生前贈与とは、自身が所有する不動産を亡くなった後に相続するのではなく、生前に子どもや孫などの親族に譲り渡すことです。
この方法を使うと、相続のときに発生する財産規模を減らし、相続税を軽減できる可能性があります。
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不動産を生前贈与することのメリット 4つ
家や土地などの不動産は財産規模が大きいうえに、「日常的に利用している」「生活の拠点になっている」という状況もあり、名義変更は相続が発生した後に行われることがほとんどです。
しかし、「不動産の生前贈与」には以下のような4つのメリットがあります!
1. 希望する相手に好きなタイミングで確実に贈与できる
不動産の相続は、相続人全員の共有財産にするのが前提で、財産の分け方は遺産分割協議という話し合いで決めていきます。
遺言を残したとしても、相続人全員の合意があれば遺言の内容と違う分け方もできてしまい、故人の希望通りにいかないことも…。
確実に不動産を渡したい人に渡したいタイミングで渡せるのが、生前贈与のメリットです。
2. 収益物件は生前贈与が有利になることも
単純な財産の受け渡しでは、一般的に相続税より贈与税の方が税率が高いため、相続の方が税金面で有利です。
しかし、収益が発生する賃貸アパートやマンションの場合、生前贈与が有利になるケースがあります。
例えば、賃貸アパートの収益を考えた場合、相続では過去の収益も相続税の課税対象となりますが、生前贈与であれば贈与後の収益は受贈者のものとなり、将来の相続税の準備資金とすることができます。
3. 値上がり確実な不動産であれば税金対策になることことも
相続時精算課税制度とも通じる部分がありますが、不動産の価格は贈与した時点の評価になるので、その後に値上がりが確実であれば、高額になった不動産の相続税よりも、生前贈与した不動産の贈与税の方が安くなるケースがあります。
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4. 夫婦間の不動産贈与であれば特例も
婚姻期間が20年以上である配偶者間での居住用不動産であれば、特定の条件を満たした場合に贈与税の特例があります。
配偶者が居住用不動産を取得するための資金や居住用不動産そのものを贈与するときに、年間110万円の基礎控除に加えて、最大2,000万円までの贈与税が非課税になり、相続税の生前贈与加算の計算にも加える必要がなくなります。
不動産の生前贈与することのデメリットや注意点 3つ
不動産の生前贈与には、以下のような税金面などのデメリットや注意点があります。
1. 全体的に負担する税金が増える傾向に
贈与税は相続税よりも税率が高く設定されています。さらに、相続時にはかからない不動産取得税が贈与時には課税されます。
また、不動産の名義を変更する際の登録免許税も、例えば相続時は0.4%ですが、贈与時は2%になるなど、不動産の生前贈与は、相続に比べて税負担が増える傾向にあります。
2. 相続税を軽減するための特例が使えなくなる
一例ですが、自宅を相続する場合に適用される「小規模宅地等の特例」などは、生前贈与では利用できません。
そのため、相続の場合よりも高い税金がかかってしまう可能性も。特に、評価額の高い不動産を贈与する場合には注意しましょう。
3. 生前贈与はやり直しや変更ができない
生前贈与は、一度実行してしまうと取り消しや変更ができません。例えば、贈与を受けた子が親よりも先に亡くなってしまった場合、贈与した不動産が相続によって親に戻ってくる可能性があります。
その場合、贈与税と相続税の両方が課税されることになり、結果として無駄な税負担が発生してしまうことに…。生前贈与は、将来の状況変化も考慮して慎重に検討しましょう。
不動産の生前贈与にかかる税金や費用
不動産の生前贈与には、贈与税、不動産取得税、登録免許税などの税金がかかります。
手続きは専門的な書類や手続きが多いので、司法書士や税理士に依頼することも検討しましょう!
- 贈与税
- 不動産取得税
- 登録免許税
- 司法書士への依頼費用
贈与税
贈与税は、個人間で財産を無償で譲り受けたときにかかる税金です。
税率は財産を譲り受けた人(受贈者)と、譲り渡した人(贈与者)の関係性によって2種類あります。
▼「一般税率」の税率と控除額一覧
「特例税率」に該当しない場合。主に兄弟間、夫婦間、親から未成年の子への贈与に使用。
基礎控除額の110万円を差し引いた後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | – |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
▼「特例税率」の税率と控除額一覧
父母や祖父母などの直系尊属から、贈与により財産を取得した(贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の者に限る)場合に使用。
基礎控除額の110万円を差し引いた後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | – |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
不動産取得税
居住用不動産であれば、築年数や規模に応じて控除が大きくなるので、税額が0円になるケースも多いです。
逆に、一棟アパートや駐車場などの事業用不動産の場合は、取得税がかかってきますので注意しましょう。
不動産取得税の計算は複雑になるので、事前に税務署に問い合わせるのが無難です。一般的に不動産の所有権移転登記から、4~6カ月後に納税通知書が届きます。
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登録免許税
登録免許税とは、不動産等の登録などを行うときにかかる税金です。不動産の生前贈与においても、所有権移転登記が必要となるため、登録免許税がかかります。
贈与による所有権移転登記の場合、売買のような軽減税率の措置はなく、課税標準となる不動産の固定資産評価額に対して一律2%の税率が適用されます。
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司法書士や税理士への依頼費用
不動産贈与の登記は、基本的には身内など当事者同士で行われることが多いため、自身で手続きを行うことも可能です。ただし、専門的な書類や手続きが多いので、難しそうであれば登記の専門家である司法書士へ依頼しましょう。
司法書士への依頼費用相場は、一般的に15~20万円程度が目安です。
不動産の生前贈与時の名義変更など、手続きの流れと方法
不動産贈与では、将来のトラブル防止に役立つ贈与契約書の作成、取得価格の確認、所有権移転登記、贈与税の申告などが必要です。
特に贈与税の申告の期日は、翌年2月1日から3月15日までと短いなど、それぞれ重要な手続きなので漏れがないように注意しましょう。
- 贈与契約書の作成
↓ - 取得価格の確認
↓ - 贈与した不動産の所有権移転登記申請
↓
- 贈与税の申告
1. 贈与契約書の作成をする
親族間で贈与や売買が行われると、将来的に当事者が亡くなったときに名義変更の経緯が不明確になることがありますが、贈与契約書は、贈与者と受贈者の合意を明確にするもので、今後のトラブルを避けるために重要な役割を果たします。
贈与契約書のフォーマットは、法律事務所などのサイトでさまざまな形式のものが見つかります。自分に合ったものを探して、贈与する財産の詳細、贈与日、贈与者と受贈者の署名などを記載します。
2. 取得価格の確認をする
将来的に不動産を売却する際、利益が出ると税金が発生します。その税金計算の基礎となる「取得価格」を把握しておくと、税金計算上有利になることが多いです。
取得価格は、贈与や相続の場合、被相続人や贈与者が不動産を取得した際の購入代金や仲介手数料などを基に算出します。
しかし、贈与後に時間が経つとこれらの情報が不明になることがあるので、不動産を贈与するときは取得費に関する情報があれば整理し、受贈者に確実に引き継ぐようにしましょう。
3. 贈与した不動産の所有権移転登記申請をする
民法上、贈与は当事者間の「あげる」「もらう」という意思表示のみで成立するシンプルなもので、不動産も例外ではありません。
しかし、口約束だけでは第三者が権利関係を把握することが難しく、不動産の権利関係を公示するためにも、必ず不動産登記を行いましょう。
▼不動産の所有権移転登記申請に必要な書類
登記申請書 | |
登記識別情報又は登記済証(一般的に権利書と呼ばれる書類) | |
贈与する不動産の固定資産評価証明書 | |
登記原因証明情報(贈与契約書など) | |
贈与者の印鑑証明書 | |
受贈者の住所証明情報(住民票など) | |
司法書士に委任する場合は委任状 |
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4. 贈与税の申告をする
贈与税の申告と納付は、財産を受け取った人が、受け取った年の翌年2月1日から3月15日までに行う必要があります。
不動産の所有権移転登記を行うと、新しい所有者に対して固定資産税などが課税されるため、自治体はその情報を把握します。税務署も同様に登記情報を把握しているので、贈与税の申告は期限内に忘れずに行いましょう。
相続時精算課税制度との違いを比較検討することも重要
相続時精算課税制度は、生前贈与時に贈与税を納める代わりに、相続時に改めて贈与財産と相続財産を合算して相続税を計算する制度。
不動産の生前贈与を検討している場合、相続時精算課税制度との比較検討も重要です。
生前贈与と相続時精算課税制度との違い一覧
生前贈与 | 相続時精算課税制度 | |
財産評価されるタイミング | 贈与時 | 贈与時 |
税金の種類 | 贈与税 | 相続税 |
適用条件 | 特になし | 一定の要件あり |
届出書の提出 | 不要 | 必要 |
年間の非課税枠 | 110万円 | 110万円 |
どちらが良いかはケースバイケース
生前贈与と相続時精算課税制度のどちらが有利かは、贈与する不動産の規模や目的、タイミングなどによって異なります。目先の損得だけでなく、長期的な視点で判断することが重要。
自身で判断が難しい場合は、税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
不動産の生前贈与に関する制度は知っておいて損なし!
不動産の生前贈与は、一般的に税率が高くなる傾向にあるため、特定のケースを除いて利用頻度は高くありません。しかし、夫婦間であれば大きな非課税枠を利用できる場合があります。
目的や状況に応じた最適な方法を選択するために制度を理解し、理想的な不動産承継を目指しましょう!
「不動産の生前贈与」について解説した不動産のプロは、この人

- 殖産ベスト株式会社
- 森下 裕矢(もりした ゆうや)
- 毎年のように変わる税制や物価変動など、不動産を取り巻く環境は日々変化しています。
そんな中で「不動産に強い」のはもちろんのこと、「お金に強い不動産屋」を目指していますので、住宅ローンやローン減税の確定申告、また不動産売買に関わる税金や相続に関する一般的な知識まで、不明点がありましたら気軽にご相談ください! - 【保有資格】
宅地建物取引士、CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、相続アドバイザー2級、住宅ローンアドバイザー - 物件探しはこちらから
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